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カビの観察


センターでのカビの観察会も会を重ね、内容も少しは落ち着いて来たように思います。 また、参加者も、少ないながらも、カビに興味を持って、じっくりと観察して下さる方もいらっしゃいます。
小学生の自由研究でのカビの扱いにたまりかねて始めた観察会。主として出現する不完全菌には知識があまりないので、 同定も不十分ながら、写真も少しはできました。ここでその一部を公開し、合わせてここでの観察のやり方を紹介して みたいと思います。

なお、ここで紹介している方法は、センターでの観察会でやっているやり方で、通常の方法よりはずっと簡単にしてあり、 特に滅菌操作は大幅に省略しています。その点ご承知願います。


○目次

方法
1.培地
2.試料接種と培養
3.観察

出て来たカビのいろいろ
1.細胞性粘菌
2.変形菌
3.接合菌
4.不完全菌
簡単なカビの観察法
1.水生不完全菌の観察
1.ミズカビ類の観察

参考文献




方法


1.培地

私のほうで、あらかじめ培地を作り、分注して、滅菌しておきます。観察会の初回に、この培地を使って平板を作るところから 観察会が始まります。
分離用の培地の種類は素寒天培地です。特定のカビを取り出して純粋培養するには他の栄養分を含んだ培地が必要ですが、この 観察会ではそこまでは行きません。
培地作成から滅菌までは一気にやってしまいます。

a;培地作成
寒天粉末20gをビーカーに入れて、水道水をこれに加えて1リットルとします。これを湯煎で暖めて完全に透明になるまで熱して 溶かします。

b;分注
培地を使う量ずつ小分けする操作です。だいたい1本の試験管に10ccずつに分けます。
私は注射器型の分注器を購入しています。これは一定量の培地を吸い上げ、ピストンを押すとそれを試験管に流し込むことができるものです。
1;培地を作成する横で、別に熱湯を作っておきます。これは培地を分注する前と、分注後に、必ず分注器に熱湯を通します。これは 分注器を暖めないと寒天がかたまってしまうからです。
2;ねじ口試験管を十分な数、用意しておきます。
3;溶けた培地を吸い上げ、試験管1本ずつに培地を注入します。培地がさめない内に、手早くやります。試験管はその後でふたをします。
4;培地全部を分注し終わると、分注器に再び熱湯を通します。これは、寒天の残りを洗い流すためです。寒天が残ると、冷えて固まって、 あるいは乾燥してくっついてしまい、後で困ったことになります。

c;滅菌
オートクレーブ(圧力釜)に蒸留水を入れ、これに分注した試験管をおさめて、加熱します。120℃まで上げて、15分ばかり置き、 それから加熱を止め、冷えるまで放置します。

培地作りはこれで終了で、培地の入った試験管は冷えてから取りだし、ビニールの袋へまとめて放り込み、冷蔵庫で保管します。 袋に入れるのは、乾燥するのを防ぐためです。

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2.試料接種と培養

観察会初日の内容にあたります。観察会では、ここでカビについての基礎知識を解説し、自然の中で、カビがどんなところにいるかを 説明します。その間に培地の入った試験管を湯煎で熱し、培地を溶かしておきます。

a;平板培地の作成
滅菌シャーレを用意します。滅菌済みのプラスチックシャ−レが市販されているので、それを利用しています(100枚単位で 3000円ほど)。溶かした培地の入った試験管を手に取り、シャーレのふたを少しずらした隙間からその口を入れ、培地を流し込みます。 すぐにふたを閉じると、シャーレを机の上で回すような感じですべらせ、培地をシャーレの底に均等に広げます。

b;試料の採集
平板培地が冷えて固まるまでの間に、試料の採集をします。ピンセットとビニール袋などを持ち、近隣の林の中の土、動物の糞、枯れ葉、 虫の死体など、いろいろ探してみます。

c;試料の接種 平板培地に試料を置きます。小さなかけらにして、シャーレの中央か、中央よりに3ヵ所ほどに置きます。
1つのシャーレには同じ試料だけを入れます。シャーレのふたに油性マジックで試料のデータや名前など、 記入しておきます。
中には、心当たりのものがあるので、培地を持ち帰って接種するという人もいました。

これは、直接接種法といわれる方法です。試料をいろいろ処理する方法もありますが、これが一番簡単ですし、もともと試料の上に あった生物群集をそのまま持ち込むことで、様々な生物が観察できる利点もあります。たとえば線虫を捕獲するカビや、 変形菌なども出現することがあります。

d;培養
試料を接種したシャーレは、ビニールの袋に入れ、そのまま室温で保存し、次回、顕微鏡で観察するまで保存します。 直射日光にあたらないところでなければいいと思っています。

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3.観察

早いものは3日もすれば胞子を作り始めます。3週間くらいは少しづつ出て来るものがあるようです。

a;肉眼による観察
培地を光にすかして見ます。菌糸の成長が早ければ、試料を中心に、寒天の中に樹枝状のものが広がっているように見えます。 成長が遅い場合は、より密に細かくつまってみえることもあり、種類によっては色がついて見えます。
寒天の表面をすかすように観察すると、なめらかに見えるところは、菌糸がないか、あっても表面に貼りついた状態になって いるところです。菌糸が立ち上がっていれば、かすんだようになっていたり、もやもやしていたりしています。そういうところで 胞子が作られている可能性が大きいわけです。
試料から離れたところにぽつんと離れて出て来るものは、空中からの混入の可能性があります。

b;顕微鏡による観察
普通、微生物を観察するためにはプレパラートを作成しますが、ここではシャーレを直接試料台にのせて観察します。
顕微鏡の対物レンズは倍率が高くなるほど試料との距離が小さくなるので、このやりかたで観察する場合、10倍までの 対物レンズだけをを使います。接眼レンズとの総合倍率では100〜150倍で、たいていのカビは見つけることができるでしょう。 ただし、細かい部分の観察は無理で、属を決めることができない場合も多いと思います。しかし、様々なカビがいることを 見るだけなら十分です。また、実体顕微鏡ではカビを見ることができても、細かい部分が見えにくいことが 多いように思います。

肉眼で観察して、カビの胞子ができていそうなところを中心に、顕微鏡観察します。絞りはできるだけ絞って おいたほうが見やすいです。
試料の周辺は詳しく観察します。試料が不透明ならば、その上を見ることはできませんが、その側面を注意深く見るのは 重要です。成長の遅いカビや栄養要求の特殊なカビなど、試料からあまり這い出さず、試料の表面で胞子を作るものが多い からです。
また、カビは培地や試料表面から立ち上がって胞子を作るものも多いので、その表面にピントをあわせたままでは 見過ごすこともあります。それ以外にも、プレパラートを観察するよりも、高低差がある材料です。ですから、必ず 片手はピント調節ねじに乗せておき、少しずつ動かしながら観察するのが大事です。

c;デジカメによる顕微鏡写真撮影
観察事項はスケッチに残すのは本筋でしょうが、そのためには菌類についての知識がかなり必要です。それはそれとして、 この観察会では、自由研究の手助けになればと、デジカメによって写真撮影し、印刷したものを持って帰ってもらったりも しています。
デジカメの場合、顕微鏡の接眼レンズにカメラのレンズを直接押しつけることで、比較的簡単に写真が取れるのです。 コリメート法と言って、焦点距離を無限遠にするのが正しいようですが、オート撮影でもそこそこ写ります。
顕微鏡写真についてはこっちも見てください。



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