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カビの観察

ミズカビ類の観察


ミズカビ類は、実は今では菌類ではないことになっています。でも、感覚的には菌類ですし、観察もしやすいので、 ついでに説明します。

ミズカビと言うのは、金魚など飼っている方には分かりやすいと思います。水底に沈んだ餌の残りや、小魚や虫の 死体などに、肉眼でも分かるくらいの長さの綿くずのような姿で現れます。場合によっては弱った魚を攻撃して 病原体扱いされます。しかし、たいていは水中の有機物を分解して生活する大人しい生物です。

肉眼でも菌糸が数えられるほどの大きさがある上、遊走子を形成するのも観察しやすく、また、少し時間を置くと、 今度は有性生殖が観察できますから、生活環の学習などに向いているという点でも、重要な教材になる可能性があり ます。

この仲間は成長も早く、観察するだけなら扱いも簡単です。汚水でなければ、どこでも良いでしょう。水田・用水路・ 池などの水がよい材料になります。一般に分離には釣り餌法を使います。菌類の好む基質を入れて、そこにくっついて 来るのを育てる方法です。

観察の方法

1:まず、餌を用意します。よく使われるは、麻の実です。小鳥の餌に売られています。
麻の実は、水に入れて沸騰させます。10分ばかり沸騰させていると、硬い殻が割れて、中身の白い種子が見えて 来ます。


2:殻を割って中の種子を取り出します。さらに、薄皮を剥いて、中から出て来るのをつつくと、子葉2枚が分かれ るので、それを2つに分けます。


3:水をすくって来ます。土を材料にすることも出来ます。

4:滅菌シャーレに水を入れます。量はまあ、どうでも良いです。サンプルが土の場合は、一つまみ入れて、そこに 滅菌水を入れます。

5:シャーレに入れた水にさきほどの麻の実を入れます。シャーレ1枚に3欠けらぐらいが良いようです。


○滅菌水は、フラスコに水(水道水でよい)を入れ、口をアルミ箔で覆い、沸騰させたものを冷やして使います。
○シャーレは滅菌していなくてもかまいません。

○理屈としては、サンプルの中に入っている遊走子が、麻の実を見つけて取り付くのを待って、その後に麻の実を 取り出し、きれいな水の中で育てるのがこのやり方です。餌に使うのは、この他にするめ等も使えますが、水が汚れ やすいようです。ツボカビ類等を狙う専門家は、松の花粉やセロハン等、いろんなものを使うそうですが。

6:高温にならないところに保存し、数日置きます。その後で麻の実をシャーレから取り出し、シャーレの中を きれいにして、それから滅菌水を入れて、そこへ麻の実を入れます。

7:それからは、毎日水を入れ替えます。うまく行けば、餌を中心に綿くずのように菌糸が伸びて来ます。


○サンプルに麻の実を浸けておく日数は、一概に言えないようです。本によっては菌糸が見えるまでそのままに しておけ、と書いているのもありますが、サンプルに浸けておく時間が短い方がその後の培養がきれいになります。 沖縄では1日浸ければ充分でした。その後、菌糸が見えなくてもそのまま水かえを続ければミズカビが生えて来ま した。しかし、同じやり方で和歌山県で行ったときは、ほとんどミズカビが出ず、どうやら3日ぐらいは浸けて 置かないと駄目でした。ですから、場所によっては調節が必要かも知れません。
○本当は、毎回滅菌シャーレを入れ替えると良いのですが、そうそうシャーレをたくさん使えませんので、毎回 同じシャーレを使っても、鞭毛菌を見る、という目的だけならば充分です。その代わり、毎日滅菌穂の入れ替えを するときに、シャーレの内側を拭って洗ってやりましょう。ぬるぬるに細菌類が繁殖しているのが分かります。
とにかく、水かえの目的は同時に繁殖する細菌類を洗い落してやること。あるとき、実験参加者が無精をして 1週間シャーレの水かえをさぼったことがありまして、そっと覗いてみると、シャーレ内全部がぬるぬるの ゼリーのようになっていたことがあります。

8:1週間くらいで遊走子が形成され始めます。コロニーの外側、菌糸の先端が白く濃くなって見えるので、肉眼でも それと分かります。顕微鏡で観察します。
○観察は、シャーレを直接顕微鏡に載せておこないます。シャーレ内の水は、少なめにしておくとよいです。この場合、 対物レンズは10倍までを使います。レンズが水に浸からないよう、注意して下さい。


○遊走子のうから泳ぎ出す遊走子の振る舞いは、分類上の重要な特徴になります。
上の写真はワタカビ属(Achlya)のもので、遊走子は遊走子のうの入り口でシストになるので、くす玉のような形に なります。遊走子のうの内部が細かく分かれて見えるものを探せば、数十分以内に放出が始まりますので、出るところを 眺めることもさほど難しくありません。なかなか感動的な眺めです。

9:さらに1週間ほど水かえを繰り返しながら培養を続けると、今度は有性生殖器官ができてきます。
こちらは菌糸の付け根の方、麻の実の近くに出来ます。

はじめに丸くふくらんだ造卵器ができて、横から細長い造精器が接合して来ます。その結果、造卵器の中に濃い色で球形の 卵胞子が幾つか形成されるのが、ミズカビ類の一般的な姿です。

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