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カビの観察



出て来たカビのいろいろ

1.細胞性粘菌

高校生物の教科書にもでてくる細胞性粘菌の仲間は、時々見かけます。
外見上は、太い子実体の柄の先に球形の胞子の塊をつけ、ケカビなどのよく似た感じになります。 よく見れば、ケカビの菌糸はほとんど隔壁がないのに対して、細かく細胞に分かれていることで見分けがつきます。 また、根元をさがせば、培地に続いている菌糸がなく、粘液かなにかで培地上に貼りついたようになっているので わかります。
子実体がでてきたときに、よくさがすと、集合中のアメーバ集団や、移動体を見つけることも あります。
・ムラサキカビモドキ Polysphondylium
胞子塊が先端に一つではなく、柄が車軸状に枝分かれして、それぞれの先端に胞子塊がつきます。


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2.変形菌

いわゆる真正粘菌ですが、変形体がでてくることが時々ある程度です。シャーレの中で子実体が できるのは見たことがありません。



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3.接合菌

一応これが専門分野なんですけれど、ケカビ、クモノスカビなどの仲間です。
菌糸は太くて隔壁がなく、胞子は袋状の胞子のうの中に作りますが、種類によっては 少数の胞子のみを含む小胞子嚢や分節胞子のう、単胞子性胞子のうを持つものもあり、 不完全菌とまぎらわしいものもあります。また、有性生殖は菌糸の接合により、接合胞子を 形成します。
この観察会では、あまり出て来ることがすくないようです。出て来ても、ケカビのように 背丈が高いと全体がわかりにくいし、クサレケカビは形が単純なせいか、参加者の目に 止まりにくいようです。

分類は、胞子のうの性質やつきかたで区別します。

・ケカビ Mucor sp.
もっとも普通に出現するもので、食べ物にぼうぼうと生えて来るのを見かけることも。 形態的にも一番基本的で、当たり前の胞子のうをつけるだけ、というのが特徴です。
構造が単純なだけに、分類は難しく、種名を決めるのはなかなか。これのように、 細長くて細かいのは、M. hiemalisにしておくのが無難とか。


・ユミケカビ Absidia sp. 胞子のうの基部が漏斗型に少し広がっていること、気中菌糸から胞子のうが出ることが特徴。
種類が多いので同定はこれだけではちょっと。


・クスダマカビ Cunninghamella echinulata
単胞子の胞子のう?をふくらんだ菌糸先端に一面につけます。


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4.不完全菌

いわゆるカビはほとんどがこれに含まれます。子嚢菌と担子菌の仲間で、有性生殖が発見されて いない菌の、仮の所属が不完全菌です。有性生殖が発見されていなくても、接合菌系のものは無性 生殖器官でも区別がつく(一応)のでここには含みません。逆に、有性生殖器官が判明して、正しい 所属先が判明した場合にも、実際には無性生殖主体のカビの姿で暮らしているわけなので、やっぱり 不完全菌としての名前が通用します。

不完全菌の分類は、分生子(外生の無性胞子)の特徴や形成の様式で行なわれます。
胞子の特徴(形・色・単細胞か多細胞かなど)は、低倍率でもある程度区別がつきますが、 形成様式は、分生子がつくられる部分の詳しい観察が必要で、ここでやるような簡単な観察では 不十分なのです。それでも、いろいろな特徴から、ある程度の見当はつきます。そのための 手掛かりについても多少説明してみます。

注意することは
1;胞子の配列;鎖になるか、塊になるかなど
2;胞子の作られ方;胞子の列の先に胞子ができるか、柄の方にできるかなど
そのためには、作り始めの頃を探してみること、それに、一つ一つをよく見るだけでなく、 同じ種と思われるものを色々見比べると多少見当がつきます。

○分生子が鎖状にならぶもの
数珠状に胞子がならぶもので、1直線の鎖のものと、枝分かれの鎖のものがあります。

・一直線の鎖のもの
この形になるのは、
a;根元で胞子を出芽して形成し、先の胞子を押し出してゆく場合
b;先端で胞子を出芽してゆく場合
c;1本の菌糸が分裂して各細胞が胞子になる場合
などです。
特にaの場合、必ず一直線の鎖になります。

・アオカビ Penicillium


食パンや餅に生えているのをよく見かけるものです。薄い青緑の胞子を作ります。
1列の胞子の鎖をほうきのような感じにつけます。

・コウジカビ Aspergillus


1列の鎖を、菌糸先端のふくらみの表面に一面につけます。

この2属は、生えている様子を見比べればわかりますが、放っておくと胞子の鎖がどんどん伸びます。 低倍率ではわかりにくいのですが、鎖の基部にふくらんだ胞子形成細胞(フィアライド)があって、 これがどんどん胞子を出芽して、古い胞子を押し出しているのです。

・アルテルナリア Alternaria


胞子を先へ先へと作ってゆく例です。まれに枝分かれします。
胞子は赤褐色で、多細胞になっています。

・トリコテキウム Trichotecium


これはちょっと変わったやりかたで、基部へ向かって柄の細胞が分裂しては、胞子の形になってゆきます。

・枝分かれした鎖になるもの

・クラドスポリウム Cladosporium


さんごの枝のように胞子を作ります。よく見ると枝先へ向かって胞子が作られているのがわかります。
顕微鏡下では透明に見えますが、肉眼では深緑色のコロニーを作ります。
食物などにもよく生えますし、壁や換気扇などにも。

○胞子の団子を作るもの
枝先に水滴ができて、作られた胞子がその中へ漂って出て、枝先から次の胞子が作られるような場合です。
場合によっては、ケカビ類の胞子のうや、細胞性粘菌とまぎらわしくなります。

・トリコデルマ Trichoderma


土壌や落ち葉からはよく出現し、成長が早いのでシャーレ一杯になり、薄緑の胞子の塊がよく見えます。
胞子の柄は3つ叉に繰り返して分枝し、先端にはフィアライドがあって、胞子を作ります。

・フザリウム Fusarium


これも土壌などからよく見かけます。特徴的なバナナ型の分生子が目立ちます。

・シリンドロカルポン Cylindrocarpon


同じく枯れ葉や土壌から、よく出ます。胞子がウインナーソーセージみたいな形で、数が増えると、 それが束になってくるのが面白い。

○胞子の房をつけるもの
たとえばこんな感じです。


・クルブラリア Curvularia
胞子を枝の先端につくり、それから枝が少しだけ伸びて、新たな先端から胞子を作ることを繰り返すと、 こんな風になります。

ちょっと変わり種で、変わった形の胞子を紹介します。
・トリスケロフォルス Triscelophorus

先のとがった棒状の主軸の根元から、左右に2本ばかり枝が出ていて、飛行機というか、トンボというか、 そんな形の胞子です。これは本来、水中の落ち葉などに生える、水性不完全菌といわれるもののの一つですが、 この種は結構陸でも胞子を作るようです。

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