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奈良女子大学大学院人間文化研究科・学術研究交流センター「南方熊楠の学際的研究」プロジェクト 南方熊楠に学ぶ・第3回

熊楠と粘菌

2001年12月15日(土)

粘菌と熊楠と電子顕微鏡

三重大学教育学部生物学教室 羽多野隆美

 私は粘菌の分類学的、生態学的研究と生物教材を中心とした理科教育に関する研究を進めています。ここでは、熊楠にちなんで粘菌の研究についてお話をしたいと思います。

 粘菌は大変微少な生物です。ふつうの顕微鏡による観察だけでは不十分な時があります。熊楠は大天才でスーパーインスピレーションがあったので、旧型の顕微鏡でも大きな成果を上げることができたのだと思いますが、私はそうはまいりませんので、それにかわって電子顕微鏡を使って研究を進めています。

 ここでは電子顕微鏡を使った粘菌の研究の様子の一端をご紹介したいと思います。電子顕微鏡は透過型と走査型の2種類のタイプがあります。形態学的な観察には走査型が便利です。従来の光学顕微鏡では1500倍くらいまで観察できましたが電子顕微鏡では約30万倍にも拡大でき、100万分の1mm (1nm) くらいのものまで観察できます。もし、熊楠が今に生きていたとしたら、さぞ、びっくりしたことだろうと思います。電子顕微鏡は高真空中で観察するために、観察に先立ち標本(試料)を調整処理する必要があります。まず、はじめに試料の乾燥をおこないます。自然乾燥させたものは形状が変化したり表面にしわができたりするので、臨界点乾燥装置を用いて本来の形状をそこなうことなく乾燥させます。つぎに、イオンコーターにより標本の表面に金-パラジウムの薄い皮膜を作ります。このようにして作成した試料を電子顕微鏡に装着して観察を行います。

 粘菌を分類学的に検討する場合、胞子嚢のいろいろな特徴が重要ですので、ここではこれを中心にお話しいたします。胞子嚢の外形や内部の様子は種によって異なり、それぞれに特徴があります。胞子嚢内部には胞子や細毛体、石灰節などが存在します。胞子の大きさは、ふつう約5μm-15μm です。表面にはいぼ状、とげ状、網目状、帯状などの特徴的な模様状の突起があります。細毛体の表面は平滑なもののほか、歯状、いぼ状、らせん状などの模様状の突起があります。このほかに石灰節、細胞質顆粒などそれぞれの種によって特徴が異なります。

 ここでは、代表的な種について電子顕微鏡でみた微細構造について紹介します。みじかで、もっとも一般的な粘菌としてムラサキホコリカビ(Stemonitis)がありますが、本種では細毛体の表面は平滑、胞子の表面には小とげ状の突起があります。ケホコリカビ(Trichia)では、胞子の表面には帯状の隆起の模様状突起、細毛体にはとげ状突起のあるらせんの模様状突起があります。このほかに数種について紹介します。

 粘菌を同定したり分類学的に検討する場合、胞子嚢の特徴は大変重要ですが、これだけでは十分ではないことがあります。この場合、そのライフサイクルを調べる必要があります。そのために、時として培養する必要が出てきます。粘菌の生活史上の特徴は変化に富んでいるので、その培養は学問的な研究以外でも大変興味のあるものです。ここでは簡単に培養ができるムラサキホコリカビ(Stemonitis)、ススホコリカビ(Fuligo)、カタホコリカビ(Didymium)などの培養について簡単に紹介します。

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熊楠の粘菌研究の軌跡とその波及効果

国立科学博物館植物研究部 萩原博光

 南方熊楠(1867-1941)が研究した粘菌は、「変形菌」とも呼ばれている。また、現在では原生粘菌や細胞性粘菌など「粘菌」の語尾を持つ別個の生物群が知られているために、「真性」または「真正」をつけて区別されている。

 今回の講演で私は、熊楠の発表論文、標本、日記、手紙などの資料に基づいて彼の粘菌研究の軌跡を4つの時期にスポットを当てて考察し、さらに彼の研究成果が学界に及ぼした、あるいは及ぼすだろう影響を検討したことについて話題提供したい。

<熊楠の粘菌研究の軌跡>

  1. 北米時代:明治20年〜25年(1887-1892)
  2. 那智時代:明治34年〜37年(1901-1904)
  3. リスター父娘との交流:明治39年〜大正12年(1906-1923)
  4. 御進講以降:昭和4年〜昭和16年(1929-1941)

<熊楠の粘菌研究の波及効果>

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