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これまでの研究経過について

 南方熊楠邸の調査は平成4年7月より、春・夏の年2回の調査を基本に現在まで19回おこなわれました。また、南方熊楠記念館の調査は平成6年より冬の年1回を基本に4回おこなわれました。

 なお、南方邸に保存されていた隠花植物標本は平成元年九月、本研究会のメンバーである萩原博光が所属する国立科学博物館筑波研究資料センターに、移管・収蔵されています。その後の調査で見つかった南方邸の隠花植物標本についても同様にしました。

〔1〕

  1.  南方邸の調査は平成4年より平成7年の4年間をかけて、ほぼ蔵書・雑誌のデータベースの作成が終わりました。平成8年より蔵書の書き込みの調査が進められています。また、平成7年より抜書・ノート類・原稿・書簡等の整理作業を始めており、これは現在も進行中です。

     これにあわせて、マイクロ化の作業を、平成7年には「田辺抜書」、平成8年には「日記」、平成9年には「ロンドン抜書」、平成10年には他のノート・抜書類など、そして平成11年には、蔵書中、和綴じ本のマイクロ化を国文学研究資料館と提携のうえ行いました。

     なお、南方邸には南方熊楠が自ら切り抜いた新聞切り抜きが多く残されていますが、これらのデータベース化は今年度中にほぼ終了する予定です。新聞切り抜きは南方熊楠の著述のための重要な素材となっており、今後、著作との関連調査が必要とされます。また、邸内に残された顕花植物、昆虫等の標本については平成9年より調査、ならびに目録の作成をおこなっていて、現在も進行中です。

  2.  南方熊楠記念館の調査は、平成6年から平成9年の4回で人文関係の資料の整理・調査を終え、平成10年3月に『南方熊楠記念館蔵品目録 資料・蔵書編』として目録が記念館より刊行されました。今後は標本類の整理・調査が必要となります。

     また、南方熊楠記念館のノート・抜き書き帳などの資料については平成9、10年の2回にわけ記念館にてマイクロ化を行いました。

  3.  国立科学博物館筑波研究資料センターに収蔵された隠花植物標本については、整理がなされ、菌類図譜の記載文を翻刻・収録した『南方熊楠菌誌』第三巻、第四巻、第五巻が、平成8年に第一巻、第二巻の収益により自費で刊行されました。また、平成10年度中には粘菌標本の目録が完成する予定です。今後は、地衣類、苔類、藻類等の標本整理、目録の作成が予定されています。

〔2〕

  1.  今後の南方熊楠邸の調査では、蔵書の書き込み等の調査のデータベース化と現在整理中の書簡・原稿・メモ等の資料の調査のデータベース化が必要となります。さらに、南方邸には膨大な自筆原稿と自筆書簡、腹稿とメモ類とが残されていますが、この資料保全と内容調査のため、マイクロフィルム撮影を行う必要があります。

     特に自筆原稿は完全原稿のみだけでなく、未完の断片原稿が多く残されているため、それらの内容を整理するためには、マイクロ化後、紙焼きし、内容を吟味しながら再整理をする必要があるのです。

     また新聞紙大にさまざまな方向に書き付けられ、連関付けが行われた独特の手稿資料、いわゆる腹稿は、南方熊楠の学問方法を分析するための重要な資料です。程度の差はあるものの、それぞれ劣化がかなり進行していることは否めません。早急にマイクロ化をおこなう必要があります。

  2.  現在までに「ロンドン抜書」については内容目録の作成おこない、その引用内容の調査をおこなうために引用文献書籍の購入ならびに引用該当部分のコピーの作成は科学研究費にておこないました。この作業は、全体の約七割ほどが終了しており、現在、内容の解読作業をおこなっています。

     一方、「田辺抜書」は、引用文献の目録作成を始めたばかりです。今後は「ロンドン抜書」と同様に引用書籍の該当部分のコピーを作成し、その内容の確定作業をおこなう必要があります。来年度より、内容目録の作成と平行して引用書籍の該当部分のコピーを作成、ならびに必要のあるものは書籍の購入の作業を始めるつもりです。

     また、現在、旧邸と記念館に別々に所蔵されている、東京・アメリカ時代に作成されたノート、抜書類、「課余随筆」等も相互につきあわせ、その内容調査をおこなう必要があります。

  3.  なお、旧邸に残された顕花植物等の標本類の整理とそのデータベース化と、実験植物園の隠花植物の標本類の整理とそのデータベース化も、順次行っていきます。

〔3〕

  1.  作製された南方邸の蔵書目録を補正するために、南方熊楠が明治19年に作成した蔵書目録の翻刻をおこない、データベース化をおこないました。また、未公刊の大正3年から大正12年まで岡本清造氏によって翻字化された「日記」原稿の入力作業もおこなっています。「日記」の記載には著作・抜書・蔵書・標本等が記録されており、今後入力された記載をデータベース化することで、各資料のクロノジカルな関連を解き明かすための索引的資料となることが期待されます。

  2.  さらに、調査の進行とともに、ここにいたるまでの、南方熊楠研究の経緯を整理する必要性が生じてきました。そこで平成7年には岡本清造氏の南方熊楠関連の文章を集めて、『岳父・南方熊楠』(平凡社)として刊行しました。また、平成10年には南方熊楠没後の関連文章・研究論文の約2500件を集成して、データベース化しました。今後は生前における関連文章の収集をおこないたいと思っています。

  3.  また、調査中には研究会を開いて調査の報告を行い、研究分担者各自が専門領域からその内容について報告・討議を行っています。研究会での討議内容については、調査研究者間の通信として発行されている『ミナカタ通信』(現在まで18号発行)に収載しています。

    松居竜五・原田健一「南方熊楠資料調査の中間報告」(『熊楠研究』第1号、1999.2)を改稿: 2000年3月現在

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