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書簡 12 『南方熊楠先生小伝』を読んで

『岳父・南方熊楠』第三章より》

樫山茂樹様

昭和四十二年六月十七日夜 一時半
十八日朝

岡本清造拝

 (前略)昨夕同僚を招いてウンと喰べたので、帰宅後小包を開いてとり出した「(南方熊楠先生)小伝」を一気に読み了えて、昨今仏前に献じています。普通先に仏前に献ずるのですが、余りのうれしさに、両人争ってとり合いで読み、三分二は女房就床後に一気に読み了えました。近日中小生の気附いた正誤表をお送り申し上げます。

 今までにない立派な出来栄えとおよろこび申し上げます。矢っ張り餅は餅屋で、よく噛み砕いて書かれたところは天晴天晴と手をたたいて読んだ個所が幾つもあります。ありがとう。サンキュー=謝、サンキュー=謝る、ハ……。

 この小伝五十部程拙方へ送り届けて、代金を請求するよう政経社へ申し込んで下さい。(それぞれに贈呈しますから)記念館でも売り出させましょう。一人でも多く熊翁を識って貰い、又奮起して貰うために。

 ただ一点次の点が説明されていないようで、画龍点睛を欠くのうらみなしとしない。熊翁の研究の点の眼目の(少なくとも)一つは、生、生命の神秘の謎を、生命の根源をつきとめようとした真の強調が足りなかった。これをつかんだなら、翁の生涯の多方面の研究の大きな一つの本筋が明らかになると思う。粘菌へ深入りしたのもそれですし、話をまぎらせながらも性を問題にしたのもそうだと小生は深く信じています。彼のは決して単なる猥談ではなかった。如何ですか。どうお思いになりますか。生、生命の不可思議。生命の不可思議な力。これ又単なるオガミのような心霊術式なものではなかったと思う。いのちの凝集結集が人間の場合心霊的な力となってあらわれるので、それを、いのちの凝集集結を自ら信じ行うたと小生は思っている。どうですかナァ?

二十二日夜

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