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後藤伸先生を偲ぶ

安田忠典     

 一月二十七日、後藤伸さんが亡くなられた。享年七十三歳。和歌山大学教育学部を卒業後、田辺高校など県内の中高等学校に三十五年間勤務。この間、田辺市文化財審議委員、環境庁自然公園指導員、田辺市文化財審議会委員長、南方熊楠邸保存顕彰会常任理事、「熊野の森ネットワーク・いちいがしの会」会長、県公共事業再評価委員などを歴任。田辺市文化賞受賞。高校教師時代から数えて五十年間、在野の生物研究家として熊野の自然の中に過ごした。その半世紀の間、熊野の森は高度経済成長という刃に蹂躙されつづけた。生粋のフィールドワーカーであった後藤さんの最大の業績は、部分的とはいえ、大塔(おおとう)山系の深い自然林をこの皆伐の危機から守り抜いたことであろう。後藤さんたちの戦いは、熊楠の神社合祀反対運動をも凌ぐ熾烈なものであった。その模様は、熊野路編纂委員会編『くまの文庫(5)大塔山系の自然』に詳しい。南方熊楠研究に携わる方々には、ぜひこの本の巻末に収録された座談会を読んでいただきたい。そして現在の熊野の森を見ていただきたい。そこで行なわれた暴挙と愚行が、あの神社合祀に端を発するものであることが即座に了解できるはずである。その意味で、後藤さんは熊楠の後を受けて戦ったといえるのではあるまいか。もちろん、氏の研究者としての業績も忘れてはならない。後藤さんは、南方邸に残された標本や日記から、熊楠が菌類にとどまらず、高等植物や昆虫についても詳細な調査をしていることを明らかにした。また、粉々に朽ちていた熊楠の昆虫標本を、わずかな破片から再現されたのは驚異であった。ご冥福をお祈りする。

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訃報:後藤伸先生 (1929-2003)

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