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《ミナカタ通信14号 (1999. 3.20) より》

新しい全集の表記その他について

飯倉照平     

書き換え資料(飯倉)

ウェブサイトでの公開に際してのお断り (2002. 9.11):本資料集に引用された各テキストの原文は縦書き・ルビ付きですが、日本語のルビ付き文章をウェブドキュメントで表現する方法は、縦書きの表現と共に、まだ広く普及するに至っていません。ここでは便宜上、現在提案されている一方式(<ruby> 要素を用いる)でルビのウェブドキュメント化を試みましたが、この方式に対応している一部ウェブブラウザ以外では「ルビ(るび)」のように括弧付きで後に続く形式で表示されることになります。ご了承下さい。また、対応ブラウザの場合でも表示異常がままあるようです。(ウェブページ管理者)

 (2002. 9.16 追記) ここで取り上げた熊楠の文章は、岩波文庫版を底本にした電子テキスト「青空文庫」で公開されています。(ウェブページ管理者)* 2003. 9.16 リンク先 uri を訂正

picture no 1

『太陽』第21巻第1号145頁、
本記事冒頭及び「第一図野兎」(拡大画像にリンクしています)

はじめに

 ここでは「兎に關する民俗と傳説」の冒頭の一節を比較する。(太) は『太陽』第21巻第1号(大正4年1月)、(乾) は乾元社版全集第一巻(昭和26年)、 (平) は平凡社版全集第一巻(昭和46年)、 (岩) は岩波文庫版上巻(平成6年)である。


(太) (この)(ぺん)(つゞ)るに(さきだ)(ことわ)()くは(たん)(うさぎ)(かい)たのと熟兎(なんきん)(か )(もの)との區別(くべつ)()る、

(乾) 此一篇を綴るに先だち斷り置くは單に兎と書いたのと熟兎(なんきん)と書た物との區別で有る。

(平) この一篇を綴るに先だち断わりおくは、単に兎と書いたのと熟兎(なんきん)と書いたものとの区別である。

(岩) この一篇を(つづ)るに先だち断り置くは単に兎と書いたのと熟兎(なんきん)と書いた物との区別である。


(太) (すなは)(こゝ)(うさぎ)()くのは英語(えいご)でヘャー獨名(どくめい)ハーセ拉丁名(らてんめい)レプス(それ)から伊太利(いたりー)名レペレ

(乾) 乃ち爰に兎と書くのは英語でヘヤー、獨名ハーセ、拉丁名レプス、 [注・脱落]

(平) すなわちここに兎と書くのは、英語でヘヤー、独名ハーセ、ラテン名レプス、それからイタリア名レペレ、

(岩) すなわちここに兎と書くのは英語でヘヤー、独名ハーセ、ラテン名レプス、[注・脱落]


(太) 西班牙名(すぺいんめい)リエプレ佛名(ふつめい)リエヴル(とう)()た、亞刺伯名(あらぶめい)アルネプ土耳古名(とるこめい)タウシャン梵名(ぼんめい)舎々迦(さゝか)

(乾) 西班牙名リエプレ、佛名リエヴル等が出た、亞刺伯(あらぶ)名アルネプ、土耳古名タウシャン、梵名舎々迦(さゝか)

(平) スペイン名リエブレ、仏名リエヴル等が出た。アラブ名アルネブ、トルコ名タウシャン、梵名舎々迦(ササカ)

(岩) スペイン名リエプレ、仏名リエヴル等が出た、アラブ名アルネプ、トルコ名タウシャン、梵名舎々迦(さゝか)


(太) 獨人(どくじん)穆麟徳(モレンドルフ)(せつ)北京邊(ぺきんへん)山兎(さんと)野兎(やと)(また)野猫兒(やめうじ)(よぶ)(あつ)

(乾) 獨人穆麟徳(モレンドルフ)説に北京邊で山兎、野兎叉野猫兒と呼ぶと有た。

(平) 独人モレンドルフ説に、北京辺で山兎、野兎また野猫児と呼ぶ、とあった。

(岩) 独人モレンドルフ説に北京(ペキン)辺で山兎、野兎また野猫児と呼ぶとあった。


(太) 吾輩(われら)幼時(えうじ)和歌山(わかやま)小兒(こども)(ねむ)らせる(うた)にかちかち(やま)(うさぎ)(さゝ)()()(ゆゑ)(みゝ)(なが)いと(いつ)たが、

(乾) 吾輩幼時和歌山で小兒を睡らせる唄にかちかち山の兎は笹の葉を食ふ故耳が長いと云ふたが、

(平) 吾輩幼時和歌山で小児を睡らせる唄に、かちかち山の兎は笹の葉を食うゆえ耳が長い、と言うたが、

(岩) 吾輩幼時和歌山で小児を(ねむ)らせる(うた)にかちかち山の兎は(ささ)の葉を食う故耳が長いというたが、


(太) 萬更(まんざら)舎々迦(さゝか)てふ梵語(ばんご)(よつ)(つく)つたので(ある)まい、(うさぎ)野猫兒(やめうじ)とは(これ)啖肉獸(たんにくじう)たる野猫(やめう)兒分(こぶん)見立(みたて)たのか、

(乾) 萬更舎々迦(さゝか)てふ梵語に據て作つたので有まい。兎を野猫兒とは之を啖肉獸たる野猫の兒分と見立たのか。

(平) まんざら舎舎迦(ササカ)という梵語によって作ったのであるまい。兎を野猫児とは、これを啖肉獣たる野猫の児分と見立てたのか。

(岩) まんざら舎々迦(さゝか)てふ([という])梵語に()って作ったのであるまい。兎を野猫兒とはこれを啖肉獸たる野猫の児分(こぶん)と見立たのか。


(太) (たゞ)邦威(のるえー)(うさぎ)(ゆき)(くゞ)つて鼷*鼠(はつかねづみ)(おひ)(くら)ふ(一八七六(ねん)(はん)サウシ隨得手録(コンモンプレース、ブック)三)と

(乾) 但し邦威(ノルヱー)の兎は雪を濳つて鼷*鼠(はつかねづみ)を追食ふ(一八七六年版サウシ隨得手録(コンモンプレース、ブック)三)と

(平) ただしノルウェーの兎は雪を潜って鼷*鼠(はつかねずみ)を追い食らう(一八七六年板、サウシ『随得手録(コンモンプレース・ブック)』三)と

(岩) ただしノルウェーの兎は雪を(くぐ)って鼷*鼠(はつかねずみ)を追い食う(一八七六年版サウシ『随得手録(コンモンプレース・ブック)』三)と

(編注:*鼷は [鼠+奚]、「青空文庫」さんの外字画像もご参照下さい)


(太) 同例(どうれい)北京邊(ぺきんへん)(うさぎ)(ねずみ)()るのか()れぬ、日本(にほん)では(もつぱ)

(乾) 同例で北京邊の兎も鼠を捉るのか知れぬ。日本では專ら

(平) 同例で、北京辺の兎も鼠を捉るのかしれぬ。日本ではもっぱら

(岩) 同例で北京辺の兎も鼠を捉るのか知れぬ。日本では専ら


(太) 「うさぎ」(また)「のうさぎ」で(とほ)るが古歌(こか)露竊(つゆぬすみ)てふ()(よん)だのも()(よし) (本草啓蒙(ほんさうけいもう)四七)

(乾)「うさぎ」又「のうさぎ」で通るが、古歌には露竊(つゆぬすみ)てふ名で詠だのも有る由 (本草啓蒙四七)。

(平)「うさぎ」また「のうさぎ」で通るが、古歌には露竊(つゆぬすみ)という名で詠んだのもある由 (『本草啓蒙』四七)。

(岩) 「うさぎ」また「のうさぎ」で通るが、古歌には露窃(つゆぬすみ)てふ名で詠(よ)んだのもある由 (『本草啓蒙』四七)。


(太) (また)本篇(ほんぺん)熟兎(なんきん)()くのは英語(えいご)でラビツト佛語(ふつご)でラピン獨名(どくめい)カニンヘン伊名(いめい)コニグリオ西名(せいめい)コネホ

(乾) 又本篇に熟兎と書くのは英語でラビット、佛語でラピン、獨名カニンヘン、伊名コニグリオ、西名コネホ、

(平) また本篇に熟兎と書くのは、英語でラビット、仏語でラピン、独名カニンヘン、イタリア名コニグリオ、スペイン名コネホ、

(岩) また本篇に熟兎と書くのは英語でラビット、仏語でラピン、独名カニンヘン、伊名コニグリオ、西名コネホ、


(太) 是等(これら)拉丁語(らてんご)のクニクルスから()たので英國(えいこく)でも以前(いぜん)はコニーと(よん)だ、日本(にほん)では「かひうさぎ」

(乾) 是等は拉丁語のクニクルスから出たので英國でも以前はコニーと呼んだ。日本では「かひうさぎ」、

(平) これらはラテン語のクニクルスから出たので、英国でも以前はコニーと呼んだ。日本では「かいうさぎ」、

(岩) これらはラテン語のクニクルスから出たので英国でも以前はコニーと呼んだ。日本では「かひうさぎ」、


(太) (また)外國(ぐわいこく)から()(ゆゑ)南瓜(たうなす)南京(なんきん)()(ごと)南京兎(なんきんうさぎ)(とな)ふ。(うさぎ)の一(るゐ)(すこぶ)多種(たしゅ)

(乾) 又外國から來た故南瓜(とうなす)南京(なんきん)と云ふ如く南京兎と稱ふ。兎の一類は頗る多種で

(平) また外国から来たゆえ南瓜(とうなす)南京(なんきん)と言うごとく南京兎と称う。[注・改行]兎の一類はすこぶる多種で、

(岩) また外国から来た故南瓜(とうなす)南京(ナンキン)というごとく南京兎と称う。兎の一類はすこぶる多種で


(太) 濠州 (おーすとらりや) 馬島 (まだがすかる)(のぞ)到處(どこでも)(さん)するが南米(なんべい)には(すく)ない、

(乾) 濠州 (オーストラリヤ) 馬嶋 (マダガスカル)を除き到處産するが南米には少ない。

(平) 濠州とマダガスカルを除き、到処(どこでも)産するが南米には少ない。

(岩)オーストラリアとマダガスカルを除き到る処産するが南米には少ない。


(太) 日本(にほん)普通(ふつう)(うさぎ)學名(がくめい)レプス、ブラキウルス、北國(ほつこく)高山(かうざん)(すん)(ふゆ)(しろ)(ばけ)ける(やつ)がレプス、ヴァリアビリス、

(乾) 日本普通の兎は學名レプス・ブラキウルス、北國高山に棲で冬白く化ける奴がレプス・ヴァリアビリス、

(平) 日本普通の兎は学名レプス・ブラキウルス、北国高山に棲んで冬白く化ける奴がレプス・ヴァリアビリス、

(岩) 日本普通の兎は学名レプス・ブラキウルス、北国高山に()んで冬白く化けるやつがレプス・ヴァリアビリス、


(太) 支那(しな)北京邊(ぺきんへん)(うさぎ)はレブス、トライ、(それ)から琉球(りうきう)特産(とくさん)のペンタラグス、フルネッシは

(乾) 支那北京邊の兎はレブス・トライ、其から琉球特産のペンタラグス・フルネッシは

(平) 支那北京辺の兎はレプス・トライ、それから琉球特産のペンタラグス・フルネッシは

(岩) 支那北京辺の兎はレプス・トライ、それから琉球特産のペンタラグス・フルネッシは


(太) (みみ)後脚(あとあし)がレブス(ぞく)(うさぎ)より(みじか)くて熟兎(なんきん)(ちか)い。一八五三(ねん)(はん)パーキンスの

(乾) 耳と後脚がレブス屬の兎より短くて熟兎に近い。一八五三年版パーキンスの

(平) 耳と後脚がレプス属の兎より短くて熟兎に近い。一八五三年板、パーキンスの

(岩) 耳と後脚がレプス属の兎より短くて熟兎に近い。一八五三年版パーキンスの


(太) 亞比西尼住記(ライフ、イン、アビシニア)にも彼地(かのち)(うさぎ)とも熟兎(なんきん)とも判然(はんぜん)せぬ種類(しゅるゐ)(おほ)いと(ひつ)()る。

(乾) 亞比西尼住記(ライフ、イン、アビシニア)にも彼地に兎とも熟兎とも判然せぬ種類が多いと筆し居る。

(平)亞比西尼住記(ライフ・イン・アビシニア)』にも、かの地に兎とも熟兎とも判然せぬ種類が多い、と筆しおる。

(岩)亞比西尼住記(ライフ・イン・アビシニア)』にもかの地に兎とも熟兎とも判然せぬ種類が多いと筆し居る。

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picture no 2

『太陽』第21巻第1号146頁、
本記事第二頁及び「第二図熟兎」(拡大画像にリンクしています)


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