たんぼの学校(上富田町生馬)



生馬小学校が取り組んでいる。 作られたのは2000年のこと。学校から 程近いちょっとした山あいの休耕田がいつのまにか湿地のようになっていたので、 これをビオトープとして学校で利用できないか、ということではじまったそうだ。

立地

富田川中流域の支流である生馬川は、本流へ東の丘陵から流入する。その山裾に 生馬小学校がある。小学校の少し上手で、小さな丘陵の裾の入りこんだところ に、田んぼの学校の看板が見える。その奥にはため池があり、その土手の下に、 一群の廃田がある。そこへ水を引いて、奥の廃田は湿地のように、手前の廃田は 部分的に掘り下げて浅い池にしている。一番手前のものはやや深く掘り下げて、 50cm位の深さの部分もある。ごく一部に板橋が作られている。そのほか、 一番下手の水田の端に5m四方くらいの板の舞台が作られている。ちょっと 唐突で場違いなかんじだが、実用的ではある。


経過
2000年の夏に見にいったときには、その浅い水域に一面にキクモ・ホッスモ・ ミズオオバコが成育していた。いずれもかつては水田雑草としてごくありふれたものだが、 現在では探すのも難しいほど珍しいものばかりである。沈水生の水草の間に、 ミズオオバコの大柄な花がさいている風景は、とても美しかった。
ここには秋津川池の川ビオトープからもジュンサイ・カンガレイなど若干数の 植物が移入されている。2000年末にはアカウキクサが侵入した。これは あるいは秋津川から持ち込まれたのかもしれない。すぐに一面に繁殖して 季節柄真っ赤になった。新聞にはもの珍しさから取り上げられ、見に来た人もかなり あったらしい。しかし、完全に水面を埋めつくすので他の水草にはよくないだろう。 現在対策に苦慮しているらしい。

地元の方々がいつも気を付けて世話をしてくださっていて、うろうろやたらに 歩いているとあぜを壊さないようにとしかられたりする。昔、水田の回りをうろうろして、 同じようにしかられたことがあるのを思い出した。親身に世話をしてくださっている 証拠だろう。
廃田の山との境には埋もれた溝がある。ここはかつては小さな池があって、水が 途絶えたことがなかったという。それを掘り返して、もう一度池と溝にして、 田んぼビオトープの水源にしようとの案もあるという。もしできればすばらしい ものになると思う。

学校の利用
小学校では授業の中でここで観察などをしているそうだ。2001年9月に、 その授業の1つに参加させて頂いた。それまでにいろいろな小動物を見つけ ているが、ミジンコなどのような微小動物を観察するのが難しいそうで、そこを 指導する役割りだった。5・6年生みんながそれぞれにプラスチック水槽や 浅いバットなどをもってあつまった。そこで水の中を細かい網ですくって、それを 浅いバットにはった水の中で洗い、それをよく見るといろいろなものが見つかるよ、 といった説明をした。何か見つかったら、聞きに来たらいい、ということで、観察が はじまった。

説明通りに観察していたのはほんの短い間で、あっという間に ほとんどが水に飛び込んでそこらをあさっていた。たいしたものである。

しばらくたつとまた説明したようなやり方で観察をはじめる子供が何人もいて、 オカメミジンコやオヨギミミズを見つけては、手持ちの双眼実態顕微鏡で観察して 驚きの声をあげていた。ああいうものは一度観察をすれば、同じ要領で他のもの も見つけられるから、これからもいろいろな観察や発見があることだろう。 帰りには水量の多い溝で足を洗うのにちょうどいい場所があって、みんな気持ち よさそうだった。

問題点
そういうわけで、池そのものも、学校の利用も、地域の取り組みも、ずいぶんりっぱな ビオトープとして健闘している。ただ、気になることがいくつかある。

ヒメダカのこと
実は、この池にはヒメダカと白メダカが多数泳いでいる。これは、どうやらこの 施設の開場行事として、子供たちに放流をさせたものらしい。さすがに最近は 数が少なくなったようだが、2000年夏には、水中をのぞきこむと、色とりどりの 小魚が泳いでいて、さながら熱帯魚の水槽のようだった。
ビオトープは自然を呼び戻す試みである。呼び戻すというからには当然、その 地域の自然でなければ意味がない。やむを得ず人力で持ち込む場合も、できる だけ同じ地域のものであるべきだ。同じ種であっても、地域によって若干の 違いがあるのが普通だからだ。
ここの場合、前からメダカがいたのかどうかは知らないが、メダカを放すの ならば、せめて富田川水系のものにすべきであった。ヒメダカ・白メダカは 論外である。

ホテイアオイ等のこと
昨年(2000年)夏より何度か訪れているが、その間に3度ばかりホテイアオイを みかけている。見つけるたびに外へ放り出しておいたのだが、(もちろん関係者への 確認は取ってある)ほかにも、キショウブと思われるものが植え込まれたこともあった。
この様な外来の植物を持ち込むことは、ビオトープをこわすことと同じだと思う。 そのあたりが関係者全員に確認されているかどうか。日本では外国産の生き物を 野外に放すことが安易になされすぎる。中には、逃がしてあげた、などと良い事の ようにいう場合すらある。そんな中で、学校ビオトープは本来の自然の在り方や その意味を教える場であってほしい。メダカのこともそうだが、寄せ集めた 外見のきれいなもので飾る事が美しいのではなく、本来の自然の美しさを知る場で あってほしい。

そういうわけで、これからもがんばっていただきたいビオトープである。

(2001年6月)

その後の経過へ

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