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◆長者舎(ちょうじゃごや



※ この地図は、大日本帝国陸地測量部発行の1/50,000地形図「上野原」(大正14.9)を使用したものである

所在:相模原市緑(みどり)区青根(あおね)字長者舎
地形図:大室山/上野原
異表記:神之川・神ノ川・神の川
形態:川沿いに家屋が散在する
離村の背景:災害
標高:約470m(学校付近)
訪問:2022年3月

 

 大字青根の南西部、神之(かんの)川(道志(どうし)川支流)の左岸にある。
 現地には県道76号線が通り、車輛での訪問も容易(ただし訪問時は災害のため通行止め)。集落の所々にある説明板によると、製炭を生業とする人々により開拓された集落であったが、大正12年の関東大震災により潰滅し無住となったという。
 なお地図上での地名は「長者舎」であるが、看板などをはじめ集落としては「神之川」(あるいは「神ノ川」「
神の川」)も用いられていることが窺える。
 
現在の砂利採取場付近が集落の中心部と思われ、ここには後年に設置された「神之川集落跡」の看板や「神の川分校跡」と題された立て札のほか、明治時代の道路供養塔が置かれている(写真1)。ただし集落自体の歴史が浅いことや離村時期が比較的古いこともあってか、集落の痕跡は確認できず。以下は立て札の全文。


 神の川分校の跡(大震災で地形が変更)

神の川牧場は閉鎖されたが、其の後炭焼きを中心とした開拓者がボツボツ現われ大正5年頃には其の数70戸程になった。
ここから青根まで子供の足で2〜3時間かかった為分教場を置いた。
大正6年には生徒数は男7名、女5名であった。
しかし大正12年の関東大震災で神の川集落は壊滅した。
神の川集落の人たちは壊滅した村に一人として帰れず、分校もわずか5年でピリオドをうった。


 ここから1qほど道なりに進むと、山の神の祠・長者舎山荘跡地・神の川牧場跡がある。
 解説によると、山の神付近には角田忠治氏が居住、神之川流域の案内人として多くの登山者を受け入れていたという。神之川で最初の山小屋であった。なお道路が広くなった部分の山側には浴槽の遺構が残る平坦地があるが、山小屋の痕跡だろうか(写真7)。
 長者舎山荘は、昭和30年神奈川国体の開催の年に建設。登山者の減少により利用がなくなり、平成2年に解体されたとのこと。
 牧場は、角田福三氏(町内大井(おおい))により明治35年に開設。最初は羊の放牧を行ったが、冬を越せなかったため後に牛の放牧のみとなった。日露戦争で角田氏が出兵したことにより、閉鎖となったという。
 牧場は立て札から山に入った台地にあったとのことだが、はっきりとした位置は不明。尾根筋沿いを中心に山林を少し登ってみたが、決して平坦な土地とは言えない。

 山の神からさらに700mほど進むと神ノ川(神の川)ヒュッテが所在し、大室山(おおむろやま)等への登山の拠点となっている。付近には「長者舎のいわれ」の説明板がある。以下はその全文。


 昔、美しい娘をちれて落ちのびてきた武将がいました。ある日、その娘の折花姫があやまって川にぞうりを流してしまい、下流の人にわかり追手にとらえられました。
 その後、この武将一家の住まいからこの付近を長者舎という地名がついたといわれています。


 なお集落の手前には、この折花姫ゆかりの折花神社がある(写真15)。

 資料『津久井町郷土誌』には、青根の小字として「長者舎」のほか「長者舎大谷(―おおたに)」「長者舎矢駄沢(―やたざわ)」が見られる。このうち集落があったのは「長者舎」だが、現在の神ノ川ヒュッテは「長者舎大谷」に所在しているよう。それぞれの地番は、長者舎が3772-3807、長者舎大谷が3808・3809、長者舎矢駄沢が3810のみ。
 また神ノ川分教場は、大正6年4月設置認可。井上氏所有の家屋を間借りして開設された。本校は尋常高等青根小学校。大正10年6月、大倉商事青根伐木所の津谷氏より家屋の寄付があり、これを改装し新校舎とする。大正12年9月、関東大震災が発生。集落は再建されることなく分教場もおのずと廃止となったとのこと。開設以前、子供の足で3時間ほどかかる東野(ひがしの)の学校まで通うことは困難で、児童は欠席しがちであった。中には学校周辺の知人宅から通わせている家庭もあったが、その数は極めて少なかったという。

 


写真1 「神の川分校跡」の立て札(左)・道路供養塔(中央)・「神之川集落跡」の看板(右)


写真2 砂利採取場


写真3 広い平坦地(鐘撞堂山登山口)

写真4 炭焼き窯跡

写真5 山の神

写真6 写真5脇の石塔。「山神大神/諏訪大神神璽」とある

写真7 遺構のある平坦地

写真8 長者舎山荘跡

写真9 同。石橋

写真10 同。「■務課」とある(■は埋没で判読できず)

写真11 牧場跡?

写真12 山小屋(神ノ川ヒュッテ)

写真13 犬越路(いぬこえじ) 方面への道(県道)

写真14 山小屋付近の林班図。「字長者舎」「字長者舎大谷」と見える

(写真15 折花神社)

 

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