ボールカウント2-2と松坂が追い込み、ウイニングショットを投げ込むため大きく振りかぶる。イチローも背筋を伸ばし右足でリズムをとる独特の構えで待ち構えるその息を飲む一瞬だった。それまでものべつ幕なし鳴り響いていたトランペットがこの時ばかりとなおかん高い音で連呼された。それは暴走族の乗る車のただ人を脅かすためだけにあるクラクションに似た実にけたたましく不愉快な音だった。あきらかにイチローの打撃を邪魔しようとする意図が感じられた。
イチローには同じことが今シーズンこれまでにもあった。それはイチローが自分の打席の時に鳴り物の応援を止めるように要望したことに端を発する。その要望に対し一応ライトスタンドは静かになった。しかし、それは彼らがイチローの真意を理解してのことではなかった。悲しいことにブルーウェーブの私設応援団はイチローの発言を自分達の応援を否定したものだと誤解し、一切の応援を拒否したというものだった。そして、なお悲しいことに逆にレフトスタンドからトランペットががなりをたてるようになった。イチローの打席の一時の静寂を逆手に取っての妨害だった。
少しくらい考えてみたらいい。これまでも私設応援団なるものが好きなだけ騒ぐだけ騒いでいる中でもイチローは5年連続首位打者という信じられない記録を打ち立てているのだ。彼が言いたいのはトランペットなどの騒音で集中力がそがれるなどということではないはずだ。
昨年の日米野球。主催者はメジャーリーグスタイルと称し、スタンドでの鳴り物の使用を禁止した。ゲームの雰囲気は最高だった。普段の喧噪のない球場は何万もの観客が一球一球に集中し、息をのみプレーを見守っていた。バットにボールが当たる音やキャッチャーのミットにボールがおさまる時の音などがよく聞こえた。そして自然発生的に起こる拍手や声援はプレーヤーと観客とが一体になってゲームを作り上げ、楽しんでいるように見えた。
イチローはこの日米野球にもちろんのこと出場した。 打って、走って、守っての大活躍はいまさらここで言う必要もない。とにかく彼はペナントレース中のゲームより気持ちよさそうにプレーをしていた。そう見えたのは私だけだろうか?それから一月程経ち、契約更改の場で彼は私設応援団への要望を出した。
トランペットを吹き鳴らし、騒ぐだけ騒ぐ、まるで美しい絵をマジックで塗りつぶしていくような行為をし続けるこの「私設応援団」というものはいったい何なんだろうか?バッティングの邪魔をするためにトランペットを吹いた奴はいったいどんな奴なんだろうか?(お前気持ちいいかバカヤロウ)「応援」で吹くラッパとプレーを妨げる目的のラッパとは違うと午後10時以降は鳴り物の応援をやめる「紳士的な私設応援団」はそう思っているのだろうか?そして、日本のプロ野球はこんな奴等をいつまで野放しにしておくつもりなんだろうか?