紀 州 備 長 炭

熊野の森林を守り育ててきた、炭焼き師の技と精神

熊野の山里にたなびく、炭焼き小屋の煙。樫を切る斧の音が、静寂な山間に木霊する。

平安の頃に、この地に伝えられたとされる紀州備長炭は、熊野の原風

景と森の文化を創造し、今日まで受け継がれてきた。

備長炭の歴史は、熊野の森と炭焼き師の歴史でもあるのだ。

山に育まれ、山に生きてきた炭焼き師は、誰よりも森を知り尽くし、

森への畏敬の念と豊かな恵みへの感謝の心を持ち得た。

こうした炭焼き師の精神は、原木を伐採する際にも活かされ、「山を

切ると同時に、山を育てる」という「択伐」の技として後世に託され、

千二百年もの間、熊野の森を守り、育ててきたのである。

原木の伐採

伐採する木は、20〜30年生の姥目樫。細い若木は将来の伐採に備え、切らずに残す。この伐採技術がいわゆる「択伐」である。

現在では、チェーン・ソーによる伐採が主流だが、切り株からの芽吹きが良いことから、昔ながらの斧による伐採にこだわる炭焼き師も少なくない。

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