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Backusella circina
エダケカビ科、属の和名は多分ありません。
新属新種として記載されたのが1969年ですから、ずいぶん新しく発見されたものです。多分、カビに和名を
つける作業は、これより前の時代に行われたのでしょうね。いい和名がほしい気がしますが。
とりたてて珍しいものではなくて、森林土壌からはわりと見つかります。
しかし、見てもそれほど面白みの少ないカビです。美形の多いエダケカビ科では、見栄えが良くありません。
何しろ、あまりにケカビ属に似すぎています。ケカビ属は、接合菌の言わば基本形な訳ですが、それだけに
特徴が少なく、取っ掛かりにくいしろものです。何しろ、丸い胞子嚢があるだけなので。
で、このBackusella属の特徴は、ケカビそっくりの菌糸体のあちこちから、ばらばらに小胞子嚢や
単胞子性胞子嚢を出す、というものなので、外見ではケカビにしか見えません。
とは言え、初めて見たときは、心踊ったものでした。
胞子嚢柄はかなり長く伸び、そのまま培地上に倒れ込んでしまいます。伸び始めは、ほんの少し先端が
曲がり込んでいるのが普通。成熟した胞子嚢は、真ん丸で、表面に細かいトゲトゲが見えます。
胞子嚢の壁はやがてとろけてしまいます。胞子嚢胞子は、球形に近い形です。
なお、この2つの写真は、培地の裏側から写したものです。
胞子嚢が培地につくと、胞子嚢壁は崩れて、胞子が広がって見えます。ほぼ球形の胞子嚢胞子の中で、
胞子嚢柄の先に丸い部分が見えるのは、いわゆる柱軸です。この辺もケカビっぽい。
胞子嚢の柄は、寒天培地の中から伸びて来ますが、小胞子嚢の柄も同じように出て来ます。
小胞子嚢は、胞子嚢柄よりはるかに短くて、培地の表面近くで作られます。柄の先がくるりと回り、その
先に小さい胞子嚢が着き、その柄の曲がりのところから、次の柄が伸びて曲がり、その先に…を繰り返すと、
左右交互に小さな胞子嚢を着けた、結構可愛い姿ができ上がります。ただし、その姿は背の高い胞子嚢柄の
薮の下。
一つの柄につく小胞子嚢は、先のものほど小さくなっています。特に小さいのは、単胞子性の胞子嚢になって
しまいます。
小胞子嚢も、壁が崩れて胞子を放出します。
この他に、伸び切ってしまった胞子嚢柄のあちこちから、小胞子嚢や単胞子性胞子嚢を出します。
単胞子性の小胞子嚢は、特に表面に強いトゲトゲがあります。こちらは、壁が崩れるのではなく、根本で折れて、
胞子嚢のままで分散するようです。
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