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マスクサ
Carex gibba


道端にごく普通の雑草です。ただし、山道の木陰まで進出します(これは逆かな?)。

木陰やしめった場所などではきれいな緑色の、みずみずしい姿ですが、日なたの道端などでは、 日焼けしたような黄色っぽい色になったり、ひょろひょろの姿でも元気に育っているようなので、 雑草としての能力は充分といった様子。

で、標本用に採集したのは、古座川の小さな支流で、一枚岩の近くです。2004年5月3日。 あちこちに沢山生えていました。

←こちらは、砂のたまった河原に出たもの。 後ろのシラスゲを追い越す背の高さで、真っ直ぐに立っていました。

←こっちは、舗装道路ぞい、山影にかたまっていたもの。 全体に細く、しだれた姿で、まったく違った感じになってます。



で、採集したのは河原に生えた方。その穂の部分の拡大です。包葉がとても長いのですが、 こうしてみると、根本でねじれて、裏面を表に向けているようです。ウラハグサとか、 イネ科の植物にはこういうのがたまにありますね。でも、こんなところで出会うとは 思わなかったな。

採集品を広げてみます。


なかなか大きいです。後ろにちょっと変なものが写っていますが、気にしないで下さい。
根出葉もずいぶんしっかり出ているのですが、茎の先の方から出ている包葉がそれと同じくらいの 量になっているようです。
匍匐茎はなし。根本の鞘には、さほどはっきりした色は見られません。



穂の部分です。

このマスクサを含む仲間は、スゲ属の中でもまたちょっと違った仲間になるものだそうで、保育社の 図鑑では、他の大部分のスゲとは、亜属の段階で区別されています。そのあたりの扱いの理由とかは、 専門的っぽくて全然分からないんですが、確かに見た感じでも違うところが多いです。
たとえば、同じような形の小穂が並んでいるあたり。たいていのスゲは先端に雄花だけの小穂(雄小穂) が、そしてそれより下にはいくつか、雌花だけの小穂(雌小穂)が並びます。例外が沢山 ありますが。

それに、一つの小穂に、雄花と雌花がある場合には、先端に雄花、根本側に雌花がある(雄雌性)事 が多いです。でも、マスクサの場合には、それぞれの小穂の根本側に雄花がある(雌雄性)らしい。
もっとも、見かけでは雄花ははっきりとは見えません。包葉とのすきまから、わずかにそれらしいものが 見えています。

さて、それではその辺り、解体にかかりましょう。



雄花をさがして、小穂の根本を見てみます。どうやら雄しべの枯れたものらしいものが見えていました。
それと、包葉の根本に、波のような皺が見えます。包葉が裏がえるのと関連がありそう。


包葉をはがして、小穂の根本を出してみると、雄しべがはっきりと確認できました。雄花は雌花のように ふくらんでいないので、軸に密着していると思われます。
ところで、小穂の一番根本が、何かに包まれたようになっています。


よく見ますと、軸の根本を巻くようになっている、薄緑色のものがあります。
根本から取り外して、裏返しますと、今度は濃い緑色。どうやら、筒状になって、 軸を完全に取り巻いているようす。しかも、両側にははみ出した陵があって、鋸歯まで あるようです。


それを破ってみると、どうやらこれが本当に雄花らしいです。丸っぽい鱗片が見えます。


さて、それでは、雌花の方へ。果胞は、これまた見事に平べったく、裏側は少し凹んで、まるで 二枚貝の殻のよう。


果胞の皮をはがすと、これもまた見事に、その内側に密着した果実が見えます。ほとんど隙間が ないので、はがれているのが分からないくらいです。
取り出してみると、柱頭が3つあるのが分かります。

しかし、さっきの小穂の根本のものはなんだったんでしょう?あらためて考えると、果胞にとても よく似ています。しかし、小穂の根本に果胞があるもんでしょうか?というより、果胞の中から 小穂が出ているように見えました。果胞は、雌花の中で、めしべを包むものですから、小穂が めしべの代わりに出て来たとか?どう考えてよいのか分かりません。
ここは、何か専門的な難しい意味があるのだろう、ということにしておきましょう。


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