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ジングウスゲ
Carex sacrosancta


ナキリスゲの仲間では珍品に入るものです。和歌山県内では、最近まで確実な産地がはっきりしていなかった ようですが、現在で端数箇所で見つかっています。いずれも自然林のよく残った山間のところです。深い照葉樹林に 生えるものなのでしょうか。

ジングウスゲはごく弱々しい植物で、いじけたナキリスゲ、という感じです。花が咲くのがナキリスゲより やや早く、9月半ばにはもう果実がほとんど落ちてしまいます。

採集日は2004年9月10日。 取って来た場所は、田辺市内(広くなりましたから)とだけしておきます。すぐれた照葉樹林が残されたところとして、 一部で有名なところ。谷間の道沿いにちょぼちょぼ生えていたのが発見されたのは、数年前のことになります。



ただし、採集した場所は、そういうところではなく、その谷の入り口が、土砂置き場になっていて、その周辺です。 土砂置き場は当然ながらススキっ原になっているのですが、周辺部には、回りの山から次第に森林の植物が進入を 開始しております。モミ・ツガやそのたもろもろ、森林の樹木が芽を生やしている様子は、なかなかのもの。
そういう低木の影に、ジングウスゲも進出していました。
何しろひょろひょろした植物なので、写真にはうつりにくい。朽ち木の脇から生えて、その上に穂を伸ばしています。 森の中の谷間沿いにあるものより、むしろこっちが元気そうです。
かといって、森林伐採されたところでは見られませんから、やはりここの森が日向にまで森林を圧し広げようとするくらい 元気があって、そのお陰ではないかと思います。



さて、採集品です。
穂がひょろ長く、根出葉よりかなり長いのは、他のナキリスゲと共通です。根元には、褐色の繊維質が見えます。



小穂はとにかく細くて、結構大きな果胞が付いているのに、何だか軸と変わらない太さの様な感じです。
下の方の小穂には、基部に長い包があって、小穂並の長さになってます。すでに果実は熟していて、 落ちているところも。
なお、下の方についている小穂では、果胞がまばらになっているところもありました。



ついでに小穂の柄の基部です。薄い褐色の前葉が密着していました。
それと、小穂の先端部です。ナキリスゲ類の例に洩れず、小穂は雄雌性で、先端に雄花部がありますが、かなり 小さくて目立たない感じです。



果胞をとりだしてみました。背中側と腹面です。鱗片が果包よりかなり短いのがわかります。毛は多い方。
果実は褐色でつるつる。めしべの先端が2つに分かれているのもよく見えます。

2005年10月

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