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アオヒエスゲ
Carex insaniae subsp. subdita


森に生える小型のスゲ。和歌山県南部では、ごく海岸近くの森から、内陸部まで、森の中に生えます。
親戚筋にあたるアオバスゲは、高野山・護摩壇山あたりから果無山系あたりの標高の高いところで 見かけます。花穂の様子はよく似ていますが、アオヒエスゲははるかに小さくて、全体の姿は全然 違っています。

採集したのは、日置川町安宅からすさみ町太間川へと抜ける峠で、いわゆる熊野古道添いの峠道です。
多くの面積がヒノキの植林になっていますが、尾根筋や谷間には部分的に照葉樹林が残っています。 その峠の部分、尾根筋の木陰に、いくつも生えていました。この種以外に、メアオスゲやジュズスゲも見かけました。
採集は2004年4月20日。



ご覧の通り、傾斜した地面に生えて、穂を下の方へ垂らすのはお気に入りのポーズのよう。
大きな果胞の目立つ、短い小穂は特徴的です。花軸の一番先っぽに、あるかないかの雄小穂がおまけの ようについているのも、哀れを誘うというか、ユーモラスです。
ここにはこんな大きさの株しかありませんでした。

取ってて来たものを広げると、こんな感じ。



匍匐枝はありません。そのうえ根も少ない。根本の鞘は特に色がないようす。このあたりそっけないです。




花序の拡大です。小穂は短くて柄がないので、長い花軸にへばりついた感じ。
一番下の小穂の下には長い鞘があります。ということは、この鞘の中には、小穂の柄がある んだろうな。ちなみに、鞘の先の葉の部分はごく短い。



雄小穂と雌小穂の拡大です。
さらに拡大すると、果胞の表面に細かい毛が生えているのが見えます。



果胞を取り出してみると、嘴がとても長く突き出しているのが印象的です。
鱗片は、ちょうど果胞の本体部分と同じくらい。少し芒が出ていました。
くちばしを拡大すると、その口のところが、少し割れていました。

切り開いて、果実を出そうとしたのですが、これがなかなか難しかった。果胞の 皮が剥がれにくく、中途半端に残るのです。皮に厚みがあって、ちょっと スポンジのような、柔らかな組織でできているようでした。




果実をとりだすと、果胞の上からはまったく見えなかったのに、もう茶色に色づいていました。
柱頭はちょっと曲がって、その先がふくらんで、また細くなってと、面白い形です。帽子状の 付属物があって、しかも曲がっているということでしょうか。
それと、果実本体の中ほどに、凹みがあるのが分かります。が、これに一体どんな意味があるんで しょう?不思議な形です。


ところで、我が家の裏山は、ミカン畑の間に、ヒノキの植林と、部分的にコジイの2次林がありまして、そこにも モエギスゲなどに混じって、たくさんアオヒエスゲが生えています。


2002.04.27 田辺秋津町


今年、この写真と同じ場所(同じ株かもしれない)で、花の時期の写真を取りました(2004.04.02)。



見ての通り、花時の花軸はやや短くて、少し立ち気味です。新しい葉はまだ伸びて来ていません。


で、右側の写真の真ん中あたりの小穂を拡大してみると、なんと、先端から雄しべが垂れているのが見えます。 小穂の先端部に雄花があるわけです。図鑑によると、この種では、花軸の先端以外の小穂は、雌花だけのは ずなのですが、そういう事もあるのでしょう、と理解しておきたいと思います。

2004年4月

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